皇位継承に係わる儀式をめぐる憲法問題

高乗智之先生s

講話日:令和元年10月29日(火)

高乗智之先生

憲法学者、松蔭大学准教授

講演要旨

国事行為と皇室行事
 今回の皇位継承に係わる儀式について、宮内庁のHPを見ると、国事行為と皇室行事に分かれている。
 剣璽等承継の儀(元年5月1日)、即位後朝見の儀(元年5月1日)、即位礼正殿の儀(元年10月22日)、祝賀御列の儀(元年10月22日)、饗宴の儀(元年10月22日~31日)、立皇嗣の礼(2年4月19日)の6つについては国事行為であり、それ以外は皇室行事となっている。
 しかし、疑問点もある。たとえば皇位の証として皇室に伝わる三種の神器の承継によって正統な皇位継承者となるのだが、天叢雲剣と八尺瓊勾玉の2つを受け継ぐ「剣璽等承継の儀」は国事行為なのに、八咫鏡を承継する「賢所の儀」は皇室行事である点。また、即位礼正殿の儀は国事行為なのに、即位と密接な関係にある大嘗祭は皇室行事となっている点などである。
 議論が交錯する理由:憲法には政教分離原則があるが、国事行為の皇室の儀式は、宗教にあたらないのか? あたるのであれば、公金支出は憲法違反になる。そこで「国事行為」は「(宗教儀式ではなく)国の儀式」である。だから公金支出は問題ない。皇室行事は皇室で支出するので問題ない。という切り分けがなされている。しかし、国事行為と皇室行事の線引きは曖昧であり、モヤモヤが残る。
政府見解
 天皇の行為は3つに分けられる。
国事行為:国家機関としての行為
公的行為:象徴としての地位に基づいて公的な立場で行われる行為
その他の行為:この中には純粋に私的なものと公的性格があるものの両方が含まれる。
 ※「その他の行為」の中に「公的性格があるもの」があって、これが不明瞭の原因である。
従来の学説
(1)三行為説(象徴的行為説)清宮四郎教授
「天皇には、日本国家を構成する特別の一員として、象徴としての地位、国家機関としての地位及び私人としての地位の3つの地位が認められ、それに応じて、天皇の行為にも、象徴としての行為、国家機関としての行為及び私人としての行為が認められる」
(2)二行為説(国事行為と私的行為)影山日出弥教授
国事行為(憲法7条)ではない公的行為は認められない、とする立場。
「第一条からはいわゆる『象徴行為』または『公的行為』が成立する余地は困難・・(中略)…『国事行為』が明文で列記された事項の範囲に限定されていることはいうまでもない。『国事行為』と区別された『公的行為』の規定がないことは自明のことである」
◎学説上、国事行為以外の公的行為とされるもの
(1)外国元首との親書親電交換などの儀礼的交際、(2)外国公式訪問、(3)外国の国家儀式への参列、(4)国会開会式への出席とお言葉の朗読、(5)国民体育大会、植樹祭などの各種行事への出席、(6)園遊会、正月の一般参賀などの行事、(7)国内巡幸、(8)謁見、(9)内奏
高乗智之先生の考え方
 政教分離は、そもそもstate(国家機関)とchurch(宗教団体)の分離である。天皇は、国家機関(state)と歴史的伝統的共同体(nation)の両方の象徴である。祭祀はnationを象徴する天皇の行為であって、大嘗祭は公事中の公事であるが、stateが行う国事行為ではないとする説をとる。「政務と祭祀は分けて考え、互いに干渉せず」という帝国憲法74条1項2項の考え方に戻るべき。政教分離は政教隔絶にあらず、それぞれ役割を分担した「政教分立」をめざすべき。
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