改憲案づくり再開第1回「第三章 国民の権利・義務」

高久泰久先生

講話日:平成30年7月11日(水)

高久泰久先生

本田学園理事、憲法学者
元拓殖大学教授、同大学院教授

講演要旨

 私は、長年の研究の結果、憲法改正が必要と考え、改正すべき条文の態様を5つに分類して論文を書いております。その中の問題点を、ご説明して行きましょう。

 まず、第一分類として、制定当初は意義があった規定でも、70年余も改正されないできたため社会の実態に合わなくなったり、後に作られた法律と矛盾するものとして、以下5つを挙げられた。
(1)憲法第25条2項は「公衆衛生の向上及び増進の努め」を国の義務としているが、その後の地球は、大気汚染・海洋汚染・気候温暖化等に悩まされ、「環境保全」が叫ばれているのに、現行憲法には、環境に関する明文がないので、憲法を改正して「環境保全」規定を置くべきである。
(2)憲法第27条3項に「児童は、これを酷使してはならない。」との規定があるが、これは、日本が貧しく児童を労働力の補充に使った時代のことで、その後の発展した日本では「児童の酷使」などは皆無なので、この条文は廃止し、「児童や老齢者、身体障害者等の社会的弱者に対する保護」規定を設けるべきである。
(3)日本国憲法はその第31条から第40条にかけて、専ら犯罪者の人権について手厚い保護を定めているが、これに対して、犯罪被害者及びその家族・遺族の人権については全く冷淡、無関心なので、この偏頗な憲法の不公正さは是正されなければならない。
(4)憲法第33条は、現行犯逮捕以外は、裁判官の逮捕状がなければ、犯人とおぼしき容疑者の逮捕はできないと定めているにもかかわらず、刑事訴訟法第210条では「緊急逮捕」という例外規定を設けている。これは、法律でもって、憲法の規定の例外を定めているわけで、明らかな憲法違反である。故に、憲法に「緊急逮捕」の規定を明記すべきである。
(5)憲法第38条1項は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」との黙秘権規定を置いているが、下位法たる道路交通法には、自動車事故の報告義務を定め、この義務を怠った者に罰則を科している。これは、憲法違反の疑義があるめで、憲法にも規定をおくべきである。

 次に、第2分類として、現行憲法を制定した当時から、非常識・非現実な規定として次の3箇条。
(1)第8条は皇室の財産の授受は、国会め議決を必要と規定するが、極めて非常識な規定である。
(2)第89条によると、国から私立学校へ補助金を出すのは許されないが、それは実態に反する。
(3)第95条は、一地方自治体のみに適用される特別法は、その自治体の住民投票で過半数の同意を要するとするが、昭和27年に1つあるだけで、その後1度もなく死文化した規定である。
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