分かりやすい憲法改正学へのすすめ
  ──その5「第1章 天皇の問題点と改正案」──

清原淳平会長

講話日:平成27年2月23日(月)

清原淳平会長

講演要旨

 第1章の前提となる各種学説は、以下の通りである。
(1)日本の国家形態は、共和制か、君主制か。世襲の独人が国家の最高機関にあれば君主制、なければ共和制といえる。宮澤俊義東大教授説では、昭和20年8月に天皇主権から国民主権への革命が起き、共和制国家となったとするが、ポツダム宣言を受諾したのは天皇制(国体)護持を切望してのことであって、占領軍もこれを維持した。よって、君主制国家と考えるべきだ。
(2)日本国の主権の所在はどこにあるか。宮澤説では、第1条「主権の存する日本国民・・」を根拠に国民にあるとされている。これが前述の日本の国家形態は共和制であることの根拠になっているが、国民主権と君主制は両立しうるものである。リヒテンシュタインやベルギーなど、国民主権と君主制の両立を明記している国もある。私どもも、主権は、天皇と国民が共有していると考えている。
(3)日本国の元首はだれか。現行憲法には明記されていないため、諸説分かれているが、まず、国民説については、日本人一人一人が元首だという説は学問的に成り立たない。元首不在説については、それでは独立国家とはいえないのであり、これも学問的に成り立たない。第41条に「国権の最高機関」とあるのを根拠に国会議長説もあるが、「国会議長」というのは二院制の現行憲法下では存在しない。次に、宮澤説は内閣説をとっていた。対外的に国家を代表する機関、条約を締結する機能や大使・公使の任免権を持つ機関が最高機関だから、という説だが、元首独人説に立てば、合議体としての内閣は元首とはなりえない。条約締結権は必ずしも元首に必須の権能ではないが、大使・公使を接受する権能を持たない元首は、存在しない。それでは、現行憲法上その権能を有するのは誰かというと、天皇の国事行為の一つとされている。よって、天皇説をとるのが妥当といえる。
(4)元首の内包概念の変遷を認めるか否か。第2次大戦前は、元首の概念は、国政を総攬し、軍隊を統括し、国家を代表するものとされてきたが、戦後の諸国の実態に合わせ、外国の公使・大使の信任状接受権があれば、元首と呼んでよいとする説を採る。
(5)「象徴」をどうとらえるか。宮澤説では、単なる象徴に過ぎず実権はないとしている。当団体としては、どうとらえるか変遷があった。昭和時代までの当研究会では、平和の象徴を鳩とするように、動物・植物に例えることはあっても、人間、それも天皇を象徴とすることはおかしいとして、象徴の言葉を排して元首としたが、しかし、元首とすると前記(4)のように元首の内包概念が、戦前と同じ3要件必要であれば考え直さねばならないが、戦後は上記のように一般的に「国家代表権」のみとなったこと。したがって、「国家の象徴」は元首の属性となったと考えて、天皇は「元首であるとともに象徴である」と解している。
 以上の学問的な解説のあと、では、当団体の平成15年以降の新憲法案で、天皇の章のどこをどう改正するかの説明に入った。そのうち、主なものを挙げると、A天皇が元首であることを明記し、対外的に日本国を代表し、日本国の伝統・文化・国民統合の象徴であることを明記した。B皇位の継承に際し、元号を定める。C現行憲法では、天皇の国事行為に「内閣の助言と承認」が必要としているが、元首の行為に承認は必要ないとして、「内閣の助言」のみとした。D当団体は、新憲法案で憲法裁判所を新設するので、天皇の任命権に「内閣の指名に基づき、憲法裁判所の長官を任命する。」ことを加えた。E現行憲法の「天皇の国事行為」に記載の10項目について、その重要度に従って、その順序を入れ換えた。F現行第8条「皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基づかなければならない。」とあるが、国民からのささやかな献上物でもこれに抵触する恐れがあるので、この条文は改正する等々の解説があった。

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