分かりやすい憲法改正学へのすすめ
──その3、改憲への手段と方法──
講話日:平成26年12月12日(金) 清原淳平会長
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講演要旨
現行日本国憲法については、成立後から、無効か、有効かの論争があった。
無効説には、次のようなものがある。
(1)感情的無効論──占領中にGHQから押し付けられたものであるから、そのようなものは無効だとする説。
(2)国際法に違反するから無効であるとする説──ヨーロッパでは、20世紀以前、戦争の繰り返しで、勝った国が負けた国の憲法や法律を変えるという弊害が出ていた。そのため、1907年に、オランダハーグで俗に言う「ハーグ条約」を締結した。その第43条には「占領者は、絶対的な支障のない限り、占領地の現行法制を尊重すべし」とあり、日本もその4年後に批准している。占領中に制定された憲法は、その国民の自由な意志を反映していないという法律的認識があった。第二次大戦の戦後処理においても、敗戦国ドイツやイタリアは、ハーグ条約に則って占領中の憲法改正を拒否。イタリアは講話条約締結後に制定。ドイツはボン基本法とし、ドイツ国民が自由な意志で決定した憲法が施行される日に効力が失うとした。戦勝国フランスの憲法にも同様の規定がある。しかし、日本は、国体維持のため占領軍により作成された憲法を受け入れた。これはハーグ条約違反であり、無効だとする説である。この説は、A現行憲法を破棄し、大日本帝国憲法に戻す。B一旦大日本帝国憲法に戻し、一夜にして新しい憲法に取り換える。の2説に分かれる。
しかし、これには以下の問題点がある。(1)これらは革命であり、国民がそれを認めるのかという問題。(2)施行して数十年たってからそれを行うと、すべての行政措置や司法判断なども無効となり、すべて再審請求を起こされる。そうすると大混乱となる。(3)現行憲法の条文の前に「上諭」がある。現行憲法が無効ということは上諭も無効となるが、それは昭和天皇の御真意に反するのではないか。
次に、有効論の中でも以下のように分かれる。
(1)成立過程はともかく、内容は平和憲法だから、一切の改憲も許さないという立場。共産党や社民党がこの立場。
(2)加憲説。(1)説に近いが、環境権など新しいものだけ加える。公明党がこの立場。
(3)創憲論。(2)説よりは広く改憲は認めるが、9条は認めないという考え方も多い。先の民主党など。
(4)8月15日のポツダム宣言受諾により革命があり、天皇主権から国民主権に変わったという宮澤俊義説。
(5)合法的に現行憲法の96条の改正手続きに基づいて改正する立場だが、A基本的人権・国民主権・平和主義の三原則だけは絶対に変えない。B三原則は尊重するが、必要な範囲で制約することが出来る、の2つに分かれている。
当団体の立場は、法は制定時で静止するが、現実は急速に変化し、改正しなければ、法と現実との間にはギャップが生じる。ドイツは同じ67年間で58回改正している。それは、「制定時の国民が後の時代の国民を縛ってはならない」という原則を理解しているからである。改正できないでいると、ギャップを埋めるべく解釈で補わざるをえなくなるが、それもすでに限界にきている。全面的に改正すべきであるという(5)B説の立場を採る。(5)A説については、現行憲法には、個人の権利が余りに協調されすぎていて、他人の権利を侵害してまで自己の権利を主張してはならないという原則が書かれていない、平和主義にしても一国平和主義では国際社会には通用しない、という問題点があるのに、三規定の内容を絶対に変えないというのはおかしい。また、革命という用語を用いて、左派にも大きな影響を与え、また右派にも革命によってできた憲法は廃棄してしまえばよいという影響を与えた宮澤俊義の説も採れない。ともかく、当団体としては、96条の改正手続きにより、衆参両議院の3分の2の発議により、最終的には国民の過半数の同意によって合法的な憲法改正を目指しているので、皆様のより一層の御協力をいただきたい。