第13回 新しい憲法をつくる国民大会 昭和57年5月3日

  
岸会長

日本民族の興亡を決する
自主憲法制定

自主憲法期成議員同盟会長
自主憲法制定国民会議会長

岸 信 介


占領憲法の意図したものを直視せよ

 本日、ここに第13回自主憲法制定国民大会を開催するに当たりまして、戦後から今日まで続いている 国民の精神的混迷を断ち切って、我々の祖先によって培われ、受け継がれてきた美しい尊い日本精神を作 興するために、所懐の一端を申し述べたいと存じます。これによって国民の心情に訴え、自主憲法制定に 向かって、力強い国民運動を展開し、時代を刷新せんと考えております。(拍手)
 顧みますれば、昭和22年5月3日、現行憲法が施行されて、すでに35年がたっております。にもかかわらず、今日なお、この押し付けられた占領憲法に甘んじている我が国の現状は、誠に痛恨に堪えないところであります。現憲法を、なぜ改めなければならないかという理由につきましては、これまでの大会におきまして、すでに十分に論じつくされております。その論拠のかずかずは皆さまもご承知の通りで、いまさら繰り返すまでもありません。したがって今日は、この占領憲法の意図した目的について、ひとつ考えてみたいと思います。
 さて、昭和20年8月15日、我が国はポツダム宣言を受諾して、連合国軍に無条件降伏をいたしました。それによって第二次世界大戦も終り、占領軍が日本に上陸して、日本に対する制裁措置が講じられたのであります。即ち、太平洋戦争末期における、あの絶望的な戦局にもかかわらず、一致団結して戦い抜こうとする恐るべき精神力と、団結力の根源を完膚なきまでに破壊して、日本をして再起不能たらしめることが、連合国側の最大にして最後の目的だったのであります。
 そのために、まず第一に天皇制を廃止すること。第二に、一切の軍備を禁止すること。第三に、日本人を完全に骨抜きにすること。この3点に、占領政策の全力を集中したのであります。
幸い、天皇制の廃止に関しましては、陛下の広大無辺な御人徳に感激した、連合国軍最高司令官マッ力ーサー元帥の手によって、辛うじて回避されました。しかし、他の点につきましては、国家の基本法である憲法の全面改正が要求され、昭和21年2月にマッカーサー司令部が作りました草案を、強制的に押し付けられてしまったのであります。
 当時、連合国軍最高司令部との交渉を行った日本の政府や、それに関係した人々は、いくたびか占領軍から威迫を受けて、その憲法を採用するように求められました。日本の歴史や伝統を無視し、あらゆる権威を失墜させるために、国際法でも、国際慣行でも禁止されているところの、占領中における憲法改正を、あえて日本に押し付けたのが、当時の実情であります。
 ただ、日本人の心の中心であり、最後の拠りどころでもある天皇制が、なんとか維持できるということで、他の点は耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで、これを受け容れるほかはなかったのでありました。
 日本の弱体化政策も、朝鮮戦争など、その後の国際情勢の変化に伴いまして、アメリカの援助によって復興の気運が起こり、日本をめぐる国際環境の変化と、国民の叡智と勤勉・努力によって、日本は今や物質的には、世界第二の経済大国になったのであります。しかし、残念ながら精神面においては、占領軍が意図した日本弱体化の目的が着々と達成され、あたかも長い歳月にわたって麻薬の中毒に冒された患者のような様相を呈しているのであります。
 皆さまも、新聞やテレビの報道でよくご承知の如く、国家・民族の将来にとりまして、誠に憂慮すべき状態にあると申さねばなりません。(拍手)

自主憲法を制定し、平和な世界を作ろう

 さて、目を転じて世界の現状をみまするとき、戦後の世界に君臨したアメリカの力も低下し、現在では昔のような指導力はありません。世界経済は停滞し、人心も荒廃して、将来を見通し得ない状況にあります。したがって、今日の極めて複雑な社会状況は、近代文明をリードしてきた西洋の合理主義のみでは、とうてい解決不可能のように思われます。
 このように考えます時、数千年の風雪に磨かれた人間の心に基づく、日本固有の思想・哲学と共に、合理主義を基調とした欧米の思想と哲学が、渾然一体となった日本の心、日本の精神というものが、人類の共存共栄と、真の平和を実現し得る原動力になると、こう思われるのであります。(拍手)
 国民経済が必要とする資源の大部分を、海外から輸入しなければならない日本にとって、世界の平和と自由は、空気や水のように最も必要で、かつ最も重要なものであります。戦後、今日までの日本は、平和と自由を十二分に享受して参りました。しかしながら、日本の死命を制する大切な平和も自由も、決してこれは自然に出来あがったものではありません。それを作り上げるために、世界各国は非常な努力をしているのであります。それに対し、日本はいったいどれだけの努力をして来たでしょうか。私は、誠に不十分なものであるとしか思えないのであります。
 いまさら言うまでもありませんが、平和は、ただ「平和」とか、「自由」だとか、口さきだけのことで出来あがるものではございません。厳しい世界の現実の前に立って、我々はなすべきことをよく考え、平和の代償としての努力や、払うべき犠牲を払って、世界の自由を守り、平和を築きあげることに貢献しなければならないのであります。(拍手)
 最近では、アメリカの力が相対的に弱まる一方、ご承知のようにソ連の軍事力が日毎に強大になり、世界の平和と自由が重大な危機に直面しているように思われます。この際、世界の平和と自由を守るために、日本も国力にふさわしい努力と犠牲を払って、自由主義諸国と協力していかなければなりません。(拍手)
 我々が「自主憲法を」と言えば、護憲派はただちに戦争につながるように申しますが、それは全く事実に反するものであります。我々は護憲派の人々よりも、いっそう戦争を憎み、武器のない、平和な世界を作りあげたいと、心から願っているのであります。(拍手)

改憲に向かって、新たな決意と団結を

 政治の要諦は申し上げるまでもなく、外に対しては国家の安全と平和を確保し、内に対しては治安と社会秩序を維持して、国民生活の安定・向上を図り、国民の幸福を増進することであります。その基本となるものが、憲法であることは言うまでもありません。憲法こそは、民族の歴史と、伝統と文化に基づくところの“国民の心”であり、国民の精神の中枢であります。(拍手)
 今こそ、我々は自らの手で、日本人の魂を打ちこんだ自主憲法を、一日も速やかに制定して、すべての国民に明るい希望を与え、新たな活力の源泉としなければならないと思います。(拍手)
 そのためには、自主憲法制定に取り組む我々の基本精神が、平和主義、自由主義、民主主義、基本的人権の尊重であることを広く知らしめ、この四つの精神を柱として、さらに真の日本精神を加えた草案を作って、これを国民の前に提示することであります。そして、徹底的な論議のもとに、国民の多数の賛成を得て、所期の立派な憲法を誕生させなければなりません。(拍手)
 自由憲法制定は、言うまでもなく自由民主党の党是であり、悲願であります。したがって、日本を担う責任政党として、日本民族の興亡を決する自主憲法の制定に向かい、総裁以下全党員が打って一丸となり、全国において活発な国民運動を展開し、もって国民の負託に応えていかなければならないと思うのであります。(拍手)
 本日ここにご参集下さいました皆さまを初め、全国の同志諸君と共に、これからもいっそう強固なる意志と団結を持って、我々の目指す自主憲法が実現する日まで、さらに邁進することを固くお誓い申し上げまして、私のご挨拶といたします。(拍手)

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